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社会の中で生きるということは、自分という存在がどの様に評価されているかの確認の連続である。
しかし誰がどう思おうとも、他者に媚びることなく己の信じる道を生きてこそ、
生まれてきた価値があるというもの。
みんなその様な生き方をしたいと願うが、そうは問屋が卸さない。
上司に媚び、部下に媚び、心休まるべき家に帰っても妻や子供に媚びまくらなければならない。
毎週楽しみに観ている『人生の楽園』みたいな老後が自分にもある筈と、
早期割増退職金を手に、未知の世界に飛び込んでみても成功するのは極一部。
誰にも媚びずに生きるということは結構難しいことなのだ。
如何にも媚を売らなくてもよい商売の代表が手打ち蕎麦屋。
媚びないどころか、愛想も何もない頑固さが美味い蕎麦屋の看板になる場合もある。
小難しい顔をして奥の方で蕎麦打ちをするだけでやっていけちゃったりする。
だがそんなやり方が通用するのは宝くじに当たるようなもの。
営業時間中は常に客席に目を配り、
お会計の際には常連さん、一元さん分け隔てなく一言二言声を掛ける。
勿論それらは媚びるなどということではなくて商売人として当たり前のこと。
自分の信念を曲げ、儲けのためだけにお客さんに擦り寄ることを媚びると言う。
東京都知事 猪瀬直樹。
媚びるということを絵に描いたように分かりやすく示してくれた。
オリンピックのプレゼンでオーバーなジェスチャーで話し始めたころから、
なんだか胡散臭い奴になってしまったなぁ~と思っていた。
案の定、都知事という強大な権力を後ろ手で抱え、
ねぇねぇと擦り寄ったすえ5000万円もの大金をせしめたそう。
かつて作家として活躍していた頃は権力を批判する側に確か居た筈。
嘘の上塗りみたいな釈明は止めてさっさと辞職するがよい。






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しなやかでごわつかず、前歯と下唇で挟むとふつんと切れ、
角がびしっと立っているが表面にはざらつきがあり、
手繰り込むに十分な長さもあって、喉奥を滑り落ちるときには、
蕎麦の香りと清涼感が味わえる様な蕎麦。
そんな蕎麦を食べていただこうと毎日打ち続けている。
だが、独学ゆえの迷いが常に付きまとう。
たとえば蕎麦釜の火加減。
容積60リッターの釜を沸かすのは3個のガスバーナー。
15分で沸騰させる火力がある。
蕎麦を茹でるには煮立った湯であることが大前提。
そこに蕎麦を投入すると、一瞬沸騰は収まるが間髪入れず沸き出さなければいけない。
だがグラグラ煮立っていれば良いというものではない。
芯に火が通る前に表面が煮溶けるような状態は蕎麦屋失格。
釜の湯は手前から奥へと対流する。
湯に放った蕎麦がゆっくりと三返りして茹で上がるのを良しとする。
今の様にガスが無かった時代は主に薪が使われた。
薪で最適な火力を維持することはなかなか難しいこと。
釜前と呼ばれた彼ら職人は店の扱いも良かったようである。
ともあれ、いろいろ試しながら最良なやり方を探していく。
蕎麦とは本当に奥の深い存在。
打てば打つほど無数の迷路が目の前に広がっていくような気がする。
根がいい加減な性格だから、『まっ、こんなモンでいいか!』と悩む前に妥協しちゃっているが、
もっと完璧を追い求めなければダメなんでしょうな。
年も年だしということでお許しを願おう。
さて、先週から暖簾を下げた。
浅黄色の小粋なもの。
おまえんとこは、やってるかやってないのか分からん、
というお客さんの文句に応えたつもり。
商い中は必ず出ているのでよろしくどうぞ。
出るわ、出るわ、次から次と嘘つき食べ物屋のオンパレード。
食品に関する認識が甘かったとかいろいろほざいているが、
ほとんどは過度のコストダウンを現場に押し付けた結果だろう。
以前にも書いた覚えがあるが、どうしてこんな値段で,という食べ物が多すぎる。
口に入るものは何より安全安心が第一。
真っ当なモノにはそれなりの価格が付くことが忘れられてる。
牛丼にしてもそう、弁当にしてもそう、安いだけで売れる世の中は何処かがおかしい。
一流ホテルともあろうものが、そんな風潮に流されたとは情けないが、
売り上げの減少などにより、長年の歴史が培った誇りをたやすく打ち捨ててしまったんだろう。
すべての責任を現場に押し付けて幕を引こうとしているが、
使用する食材の見直しや、メニュー表示の変更ということで済む問題ではない。
偽装と知りつつ扱う現場の調理人の心の有り様にも、目を向けなくてはいけないと思う。
野菜の皮むきから始まり、何年もの修業を重ねている彼らの給料は、その努力に対する真っ当なものなのか。
自分の仕事にプライドは無いのかと批判する向きもあるが、
一日中働きずくめでも、食べていくのにぎりぎりの給料ならば、そんなものを持てというのが無理。
ホテルのレストランというと、一般の庶民にはなかなか行くことができないハレの場である。
そこで出される料理に、それなりの値段がつくのは当たり前で、安さを求めていくわけではない。
他の所より高くても、そこには最高の食材を使っているという信頼と、最高の調理の技が含まれていると納得するのである。
安いことだけを追い求める世の中は、そろそろやめにしませんか。
肉にしろ魚にしろ、食べ物として口に入るまでに何人もの人たちの手間暇を経ているのである。
そこん所をきちんと評価して、お代を払いましょうよ。
当店の蕎麦も高いと、時々言われる。
どこと比較されているのか分からんが、手打ち蕎麦とは高いもんなのである。
朝の三時から起き出し、良い蕎麦粉で蕎麦を打ち上げ、
氏素性の明らかな食材を使って食べ物にしつらえると、それなりの値段になるのである。
以前東京の蕎麦屋さんが来店した。
せいろと鴨せいろを注文。
ちょうど手隙だったのでいろいろ話を伺っているうちに勘定となった。
『1830円です。』
『えっ!せいろと鴨せいろだよ?東京じゃ鴨せいろだけの値段だよ!安すぎる!!』
こんなお客さんばっかり来ませんかね。
蕎麦の薬味にはいろいろある。
葱の白いところを刻んだものとワサビはその代表格。
使い方も様々で、最初から汁に投入する派と、蕎麦を食べ終えてから蕎麦湯に入れて召し上がる派に大きく分かれる。
自分は葱もワサビも使わない。
蕎麦の微かな香りが無くなってしまうし、汁の味も分からなくなってしまうからだ。
まっ、これといった決まりごとは無いので好きに使っていただいて結構なのだが、
昔はワサビが簡単に入手できなかったこともあり、大根おろしが多く使われていたそう。
その中でも辛味大根は最強の薬味。
脳天をガツンと突き刺す辛さはワサビの比ではない。
しかもこの大根の偉いところはただ辛いだけではなく、
蕎麦本来の旨味や甘みを引き出すことにある。
汁に溶いても、はたまた蕎麦の上にちょんちょんと載せて食べるのも良い。
当店で使う辛味大根は、長野県から取り寄せた親田大根という辛味が強いものを使っていた。
カブに似た形で、辛さの中にも甘みが感じられる美味いものである。
ただ難点は送料などが高いため、近場でいいものはないかと探してたところ、
たまに寄らせてもらう紋別唯一のイタリアンの店『クアトロ』のマスターにある人を紹介された。
その人が『百笑たきのうえ』の高橋浩徳さん。
高校の教師を辞め、滝上で無肥料無農薬の農業に挑んでいる。
2,3日前、収穫したての親田大根を持ってきてくれた。
初めて作ったので蕎麦と合わさるとどんなモノになるか想像がつかない、
だから辛味大根おろし蕎麦を是非食べてみたいとおっしゃる。
店にはいろんな業者の方が来られるが、
こんなにきっぱりと、自分の品物と蕎麦との味の確認を言い出した人はいない。
なんだか嬉しくなってゴリゴリと大根をおろし蕎麦を茹で上げた。
『うまいなぁ~、この大根がこんなに蕎麦と合うとは思わなかった!』
感想を口にしながら蕎麦屋受けするなかなかの食べっぷり。
家庭菜園の延長みたいなもの、とご本人は言っているが、
ミニトマトなんかは味が濃く、非常に甘いと評判のよう。
今年は間に合わないが、欲しい野菜があれば受け付けるという。
来年の楽しみが一つできた。
海老天蕎麦は蕎麦屋の看板商品。
衣の華をパッと散らせたその姿は江戸前蕎麦の千両役者である。
当店で使う海老は2Lというサイズ。
どんぶりの端から尻尾がはみ出すほどではないが、
なかなかの見応え、食べ応えのある大きさである。
格好ばかりで頭ん中が空かすかのやつを『蕎麦屋の海老天』と言うように、
小指ほどの太さのものに三倍ぐらいの厚着をさせて出すところもあるが、
どこから噛みついていただいても歯が空振りすることは無い。
昔の蕎麦屋の海老天は、江戸前すなわち東京湾で採れる芝エビを使っていたそう。
大きくても10センチ位のやつを横に繋げて揚げる。
手のひらの上で形を整えて筏にするわけだが、
何匹繋げて揚げられるかが職人の腕前の基準の一つになったらしい。
時代は変わり、今はほとんどの蕎麦屋が養殖のブラックタイガーを使っている。
ベトナムやインドネシアなどの東南アジアが主な生産国。
日本の商社が現地で直接品質管理に携わっているということで安心して使っていたが、
半月位前の新聞報道で、あちこちの養殖場で原因不明の大量死が発生、
年末の需要が増える時期を控え争奪戦が始まっていると伝えられた。
次回の注文から少し多めに頼んでおこうかななんてのんびり構えていたが、
今日問屋に電話したところ、なんと一尾につき20円も値上がりしている。
おおよそ30パーセントの上昇。
海老天蕎麦一人前1180円なり、この価格で吸収出来る範囲をはるかに超える。
大企業が良くなれば中小の企業も良くなると政府は言う。
どう考えても真逆だろうと思う。
消費税のアップを前に、円安の影響でガソリン等すべてのモノが値上がりしている。
何年前だったか忘れたが、泣き言を言いながら政権を投げ出した政治家がいた。
同じ奴が祖父である岸信介の亡霊の力を得て蘇り、誤った方向にこの国を向けさせようとしている。
汚染水の漏出などが後を絶たない福島の現状を、すべてコントロールができていると言い放つ。
国民の操縦も思いのままと考えているのだろう。
ところがどっこい、そうはいかねぇよと反旗を翻すものは誰もいない。
自分が20代の頃、安保反対運動に象徴されるよう絶対権力に反抗する学生運動があった。
学生という特殊な環境を差し引いても、己のためだけではなく、
将来の子供たちのことを考えての行動だったと思う。
今の若者は新聞も読まず、TVの報道番組も見ないという。
携帯やスマホのゲームにうつつを抜かしているうちに、
一部の金持ちだけが暮らしやすいように世の中どんどん変えられているんだよ。
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